ギフト経済

アメリカの砂漠で一週間行われる、バーニングマンという祭りに昨年の夏に行ってきた。一週間自給自足で生活するのだけど、ここでのルールが「金銭のやりとり禁止」「見返りを求めない」という、まさにギフト経済を地で行ったもの。

広大な砂漠を歩いていると、いろんな人が様々なものを提供してくれている。酒や飯を配っている人、通行人に水をかけてくる人(砂漠ではこれがとにかくありがたい)、飛び入りOKなパーティを開催している人…もう一つのルール「傍観者になるな」に則って、とにかくみんなが何かを提供している。

僕らは日本からピカチュウやひょっとこなどのお面を大量に持ってきて出店をやったのだけど、これが中々に評判が良くとにかく通行人に無償で配りまくった。そうするとどうなったか。僕らが移動する先々で、プリキュアのお面を被ったアメリカ人が何かをふるまってる光景を見かける様になったのだ笑

そんな感じで、見返りなんか求めずに、自分の提供出来るものを、楽しみながらみんな提供している。give&takeでは無くgive&give、日本語で言うと恩返しでは無く「恩送り」。恩を受けた人に恩を返すのでは無く、受けた恩をまた別の人に送る。この言葉は江戸時代からあったらしい

そうやって恩を送りあいながら、助け合いながら、過酷な砂漠の中で一週間を過ごす。まさにギフト経済でバーニングマンは成り立っているのだ。そしてこういった場は他にも少しずつ増えてきている。何度かつぶやいた事もあるけど、アメリカなどで増えつつある「カルマキッチン」というレストラン。

カルマキッチンとは有機野菜などを使った美味しい料理が、なんと完全に無料で食べられるレストラン。もちろんただ単純に無料な訳では無い。なぜ自分が食べた分が無料になるのか?それは、”前にきた客の誰かがあなたの分を払ったから”なのだ。前にきた誰かからの贈り物(ギフト)。だから無料。

どこかの誰かからの贈り物。贈り物だから、お代をその人に返す必要は無い。そんな優しい贈り物で成り立つこのレストランで食事をしたあなたは、この優しさを次につなげる事が出来る。また次の誰かの分のお代を払ってもいいし、レストランのお手伝いをしてもいい。もちろん何もしなくてもいい。

商品を提供してその対価を貰う。恩返しを期待して手を差し伸べる。従来のそういったキャッシュオンデリバリー的な1対1の関係では無く、恩を送りあいながら優しい経済圏を作っていく。贈り物経済。資本主義や貨幣経済が無くなるとは思わないが、こういった実験は少しずつ形になりはじめている。

僕らが新しく始めた学校、青空学区もそういったギフト経済的な実験を試みている。授業料は完全無料。学んだことを誰かに伝えてもいいし、講師のお手伝いをしてもいいし、もちろん何もしなくても構わない。授業料を取る事で生徒がお客様になってしまったから、学校がおかしくなってる様に僕は思う。

人から人へ恩を送り次に繋げていく。人類の歴史もこうやって紡がれてきたことを、僕らは忘れつつあったのかもしれない。親から子へ、そして子から子へ。親から受けた恩を親に返すのでは無く、子に繋げていく。
そうやって僕らはいまここにいる。