優しい革命のはじまり -東京都知事選を終えて-

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このたびは多くの皆様からたくさんのご支援をいただきました。誠にありがとうございます。投票してくださった皆様、ツイッターやフェイスブックなどインターネット上で応援してくださった皆様、選挙事務所に足を運んでくださった皆様、極寒の中で手伝ってくださったボランティアの皆様、応援演説に駆けつけてくださった皆様、クラウドファンディングで支援してくださった皆様、本当にありがとうございました。深く感謝しております。

今回の都知事選挙は、脱原発などいくつかの論点がありました。その中の一つとして、ぼく以外の候補者が55歳以上(主要候補にいたっては65歳以上)で、1人だけの30代の出馬というコントラストも注目されたように思います。そしてIT業界出身で、特定の支持基盤や組織を持たないぼくが、いかにネットを活用してネットで動員するか、いう点でも動向を見守ってくださった方がいると思います。改めてここで結果を記しますと、最終的には主要4候補に次ぎ5位、最終得票数は88,936票でした。初めての出馬にしては健闘したよ、いきなり何もない中で始めてよくここまで形にしたよ、という声もいただきますが、やはりとても悔しいです。がっかりした人も多いはずです。みなさんの声を背負って出馬したにも関わらず、ぼくの力不足でこういった結果になってしまいましたことを、心よりお詫び申し上げます。

今回出馬をして改めて感じましたのは、やはり東京における居場所の少なさと、ぼくらと政治の間の断絶です。事務所開きに集まったボランティアの皆様や、街頭演説に来ていただいた方々の中には、心を病んでしまい、普段部屋から出られずにいるのに、居ても立ってもおられず駆けつけてくれた方もいました。これだけ物に満ちているのに孤独を感じてしまう国。これは年間自殺者3万人という数字にも表れています。

選挙では「東京をぼくらの街に」このコピーを掲げ、居場所の必要性を訴えてきました。会社や学校、家や世間からこぼれ落ちてしまい、生きづらい思いをしている方々がたくさんいます。むしろそういう少数派こそが多数派になってきているのが今の日本、特に都市である東京が抱える課題です。だから今こそ、多様な価値観や生き方をお互いに認め合い、支え合える社会のあり方を考えなければならないと思うのです。

もし東京をそういう街に出来れば、直下型地震が訪れた時の助け合いや、独居老人、待機児童の問題などを解決出来るのではないか、またオリンピックで来られる海外の方々にこの街を魅力的に思ってもらえるのではないか。実は各分野における政策の前に、それぞれが居場所を持てるようにすることから始めるべきだと思っていました。「居場所」という抽象的な言葉に批判もよせられましたが、ぼくはここに全ての解決策があるのではないか、未来をいきいきと生きられるようにするための源があると、今でも考えております。

今回、ぼくは主にツイッターなどのSNSを使い、みなさんの声から政策・公約をつくるという「ぼくらの政策」という手法を試みました。「ぼくら」とは、若い層だけではなく、主権者である国民、すなわち「わたしたち全員」のことを指しています。今、政治と主権者の関係性は、サービス提供者と消費者の様になってしまってはいないでしょうか。政治がぼくらの声を聞いてこなかったように、ぼくらもまた、政治は政治家がやればいい、そうやって押し付けてきたのではないでしょうか。ぼくがメディアから泡沫候補扱いをされたように、ぼくらもまた、泡沫有権者のような扱いをされてきたのでは無いでしょうか。有効投票数につながる支持基盤の声だけを聞く政治家が多い中で、これまで誰もぼくらの声を聞いてこなかった。それが、今の政治不信、若い層の低投票率に表れているのではないでしょうか。特定の誰かではなく、政治から遠く離れてしまっている「ぼくら」。その代弁者はどこにいるのでしょうか。

ぼくが今回出馬を決意したのは、その状況を変えたいと思ったからに他になりません。政治とぼくらの間にある断絶を埋めたいと思いました。みなさんの声を聞く形で、対話をする形で政策を作ることで、「ぼくらも声を上げてもいいんだ」「ぼくらの声を聞いてくれる人がいるんだ」と思って欲しい。浮動票だと思われているぼくらが声をあげることで、動くことで、政治に実感値を持つことができる。それぞれに生きやすい居場所をつくることも、そこから始まるのではないか。そう考えて、限りあるリソースの中で工夫して、自分たちなりに今回の選挙をつくってきました。

またネット選挙に関しては、前回の参院選で解禁され話題になっていましたが、本当の意味でネットを使い切った候補はいなかったように思います。ネットの最大の利点は双方向性にあります。声なき声や、家から出られない方々の声を、対話によって拾い上げられる点にあります。従来のテレビの様に街頭演説の一方的な動画配信や、スケジュールをつぶやくことにはそんなに意味はないように感じます。ツイキャスやニコ生で対話をし、ツイッターで意見を聞き、フェイスブックでシェアを拡散し、クラウドファンディングで応援を集める。インターネットを使い、民意を吸い上げる形で、政策をつくる。極端なまでにネットに振り切った選挙戦でしたが、今後のひとつの形は提示できたのではないかと思います。

先述通り、もちろん結果には満足していません。ネットだけではそんなものか、そんな感想を抱く方も少なくないでしょう。申し訳なく思っています。また、デジタルデバイドと呼ばれる、お年寄りなどのネットやスマホを使えない方とのコミュニケーションについても、改めて課題を感じました。選挙戦中盤には巣鴨に足を運んで直接対話したり、インタビューを通じて声をすくい上げるということも試みましたが、結局最終的にはメディア上でも世代論に収束した形で取り上げられてしまいました。これらは今後の課題として、地道に取り組んでいくつもりです。

今回、残念な結果で選挙は終わってしまいましたが、新たに起き始めたうねりや集まった声をここで終わらせるつもりはありません。今回もし、小さな小さな穴を開けることが出来たのだとしたら、その穴から新しい風を送り続けたいと思っています。そのためにも、今回選挙をするに当たって立ち上げた「インターネットパーティー(internet party)」という政治団体を、引き続き受け皿として活用して、今後の活動をつくっていきます。3万人の声からつくりあげた120項目にわたる「ぼくらの政策」のうち都政で無くとも出来ることは、ぼくらで実現していきます。その他に、情報を発信するためのメディアや、引き続き政治への関わりはつくっていこうと考えています。

いま様々な方々が都知事選を総括されていますが、そこで頂いた指摘やアイデアを受けて、また今冷静になって今回の経験を生かす形で、今後の動きは柔軟に考えていきたいと思っています。88,936という数字は、当選ラインから見ると確かに少ないかもしれません。しかし、今まで政治から離れてしまっていた、声をあげることができなかった人々の新たな動きとしては、決して小さくはない。ここから何をどのように始めていくか。大事なことだと思っています。

最後に。たとえば、孤独なお年寄りや、いじめられた方や、LGBTや、在日の子や、海外から来た人や、シングルマザーファザーや、障害を持つ方や、精神を病んだ方や、自殺を考える方。そんな人々が一緒に、お互いを認め合って生きていける社会をつくりたい。それは居場所を持つことから始まります。そんな社会に変えていくのが、優しい革命です。2020年のオリンピックまでに、なんとかそれを実現したいと考えています。今は何者でもないぼくらの声を届けるために、ぼくらの声で社会をつくるために、東京をはじめとして日本を変えるべく動き出します。選挙は終わりましたが、ここからが始まりです。改めて、今回の結果やご指摘、批判は素直に受け止め、反省し、次に繋げていきます。動きをやめないことが、ぼくのできる恩返しです。これからもみなさまのご支援をよろしくお願いいたします。

家入一真(家入かずま)