「身近な誰か」に向けて「手紙を書くように」作るサービスのほうがいい

僕はこれまで「ロリポップ」「CAMPFIRE」「BASE」などのサービスを立ち上げてきました。ご存知の人はわかるように、僕が作る、もしくは立ち上げに携わったサービスは、すべて地味なんです。全然ハデじゃない。

なぜ地味になってしまうのでしょうか。もちろん、そもそも僕自身が地味だということもありますが、何より、ややこしくない、シンプルなビジネスが好きというのがあると思います。

たとえば、ペパボ時代に立ち上げた「ロリポップ」は、月額250円でサーバーを貸します、というものでした。これは、「使う人からお金をもらう」「その対価としてサーバを貸す」というものであり、構造が非常にシンプルでわかりやすいのです。

逆に、最近よく耳にするような、アドテクのようなビジネスは、なんだか複雑っぽいし、あまり理解できていないこともあり、よくわかりません。

そして、シンプルなビジネスが好きな理由が、もう一つあります。

身近な人へ手紙を書くようにサービスを作る

サービスやビジネスを作るとき、僕が大事にしているのは、

「身近な人の顔を思い浮かべて、手紙を書くように作る」

ということです。

「BASE」を例に挙げると、このサービスは、代表である鶴岡くんから「実家の母親がネットショップをやりたがっているけれど、どうすればいいかわからず困っている」と聞き、

「もしかすると、鶴岡くんのお母さんみたいな人が世の中にたくさんいるかもしれない」
「鶴岡くんのお母さんが喜ぶサービスを作ろう」

という発想から誕生しました。

となると、「BASE」を作るうえで、常に「これは鶴岡くんのお母さんでも使える機能だろうか」「これはわかりにくくないだろうか」ということを、一つひとつ考えることになります。特定の身近な誰かを思い浮かべて作るということは、ターゲットもニーズも(本当はターゲットやニーズなんて言葉は使いたくないのだけど)、はっきりしているということです。ゴールも見えているので、どうしてもシンプルなものになります。

いわゆる「20代女性をターゲットにして」みたいなやり方では、僕には「このサービスを必要としている誰かの顔」がどうしても思い浮かばないのです。輪郭がぼやけたまま作ると、結局、誰にも刺さらないものができあがってしまいます。

ちなみに、サービスを作るときはマネタイズも並行して考えます。ガチガチに固まったものではなく、ぼんやりと「このへんでマネタイズができるといいね~」程度です。ぼんやりとゆるく考えておくことで、いざサービスを開始してみて「当初の想定と違った!」となっても柔軟に対応できます。

あ、もう一つ。身近な誰かのために作るということは、たとえそのサービスがビジネスとしては上手くいかなくても「一人だけでも喜んでくれた人がいる、それだけでもう大成功と言えるんじゃないか」と自分を納得させることができるという利点もあります(笑)。

「起業したいけどなにをしたらいいかわからない」

若い子からそんな相談を受けることも多々ありますが、いつも僕はこう返しています。「なんでもいい、まずは身近な誰かが喜ぶことをやってみたら?」と。すべてはそこから始まるんじゃないかと信じています。

ゼロとイチの間にこそ、大事なものがある

起業家の中には「ゼロかイチか」「左か右か」と、極論で物事を進めようとする人がいます。

そもそも人は極端なことを求めがちだし、極端なことをしたがるところがあるので仕方ないかもしれません。楽だしね。ですが、僕はこういった極端な考え方はあまり好きではないです。どちらかというと、そのゼロとイチの間にある、「0.43」とか「0.62」あたりにこそ、本当に大事なことが隠れてるんじゃないかなと思っていたりします。

「ゼロかイチか」といった振り切り方は確かにカッコいいですし、時には必要です。 優柔不断でいろんなものごとを保留してばかりの僕にはなかなかできないので、うらやましいなぁと感じることもあります。

でも、そればかりだと、自分の主張が先走っていて、大事なユーザーにとってやさしいサービスはできませんよね。僕の会社でも「ゼロかイチか」の議論になることはよくありますが、そんなときは「その考え方をまずはやめよう」と言ったりします。

これは、僕自身が「偏らずぼんやりと漂っていたい」と考えているからなのかもしれません。

「これが正しい!」「あっちのほうが正しい!」と言い切ることも決して間違ってはいません。
でも僕は「こっちも正しいし、あっちも正しい」「どちらも正しいから、どうしようかねえ」と考え続けていたい。今すぐに答えは出せないけれど、答えを出すためにずっと考えながらサービスを作り続けることが、実はけっこう大事なんじゃないかなと思っています。